当店のこだわり

「たぬき煎餅」で一番高い煎餅は、「直焼」

当店の「直焼」には、「大狸」・「小狸」・「古狸」・「元老狸」の4種類があります。当主自らが、店頭で一枚一枚焼いています。材料、生地作り、焼きと、最後の仕上げまで、しっかりと手間ひまをかけた、一切の妥協を許さない最高級品です。

生産量が少なく、御用蔵醤油もあまり手に入らずで、一日に数百枚焼くのがやっとです。それでも、直焼きにこだわります。店頭で焼くことで、お客様の生の声を聴けるからです。また、煎餅を焼いている姿をお客様にご覧になっていただけるからです。

美味しい煎餅は、焼き方だけではつくれません。焼く前の「生地」も大事です。まず、焼く前に生地を乾燥させます。しかし、この乾燥のさせ具合が、とても難しいのです。

昔は、天日干しでしたから、なかなか思うようにできませんでした。米のもともとの含水量がそれぞれ微妙に違うからです。

乾かしすぎると、焼いた時にひびが入ってしまいます。乾かしが十分でないと、中が生焼け、になってしまいます。

乾燥させる時間が少しでも狂ってしまうと、商品にならないという、非常に厳しいものがあります。焼ける状態の生地かどうか、ここの見極めが腕の見せ処です。焼きあがると醤油を塗って、とろ火で乾燥させます。この時も、適温を維持しないと、風味が損なわれてしまいます。

仕上がる最後の最後まで、気が抜けません 。

こだわりの素材と味

当店の煎餅の生地には、特撰米を使っています。良質な生地でないと、他のいい材料と組み合わせても、本来の味がいきてこないからです。特に、日本人の主食でもあるお米の味には、誰もが敏感です。おいしいご飯をそのまま食べるような感覚で、煎餅を食べていただきたいと願っています。

煎餅に塗る醤油は、生地のならし方や焼き方の違いによって、8種類の極上醤油を使い分けています。煎餅の焼き上がりに醤油を塗るのですが、塗り方にも工夫をこらしています。醤油は、どんなに極上の醤油であっても、焼きたての煎餅につけなければ、風味がでません。焼きたてに刷毛で醤油を塗ると、香りが目に見えるような湯気がたちます。

他にも、海苔は有明、抹茶は宇治、柚子は土佐など、おいしさにこだわって、各地の逸品を使っています。誰もが納得できる美味しい煎餅を焼いて、お客様に喜んでいただきたい、と日々思っています。

「作り手が苦労してこそ、煎餅にこだわりが宿る」と信じています。たぬき煎餅のこだわりの根っこにあるものは、ただ一つ、「お客様に美味しい煎餅を食べて、喜んでもらいたい」という熱烈な思いだけです。

たぬき煎餅では、「大狸」、「小狸」など、オーソドックスな醤油煎餅から、チーズサンド煎餅「たぬ吉」、一口サイズの「わらべ狸」、唐辛子を入れたごぼう煎餅「狸のしっぽ」等、さまざまな種類の煎餅をつくっています。

醤油煎餅だけでは、お客様も飽きてしまわれるのではないかと思い、他のどこの煎餅屋もつくっていない新しい商品を、と考えてつくったのが「たぬ吉」でした。ヒット商品になりました。

現在でも、お客様に楽しんでいただける新商品をつくろうと、試行錯誤を繰り返しています。

宮内省御用達と“たぬき„への強い思い

たぬき煎餅は代々、「こだわりの高級煎餅」を黙々と焼き続けてきました。昭和3(1928)年に創業し創業からほどなくして、昭和7(1932)年に、皇太后陛下(大正天皇御后・貞明皇后)より御買い上げの名誉を賜り、昭和10(1935)年に「宮内省御用達」になりました。

職人の技とは、言葉で説明するものではなく、多くの失敗を繰り返して、体で覚えるものです。教えてもらうのではなく、盗むものです。私もまた当主である父親の姿を常に目で追い、技を盗もうと必死になって学びました。そうして体得した技で、たぬき煎餅は焼かれています。

たぬき煎餅はまた、包装へのこだわりも持っています。昭和7年2月、初めて皇太后陛下にお品をお納めする時に、創業者・圓蔵は知人の画家・村上玉嘉に狸の絵を描いてもらい、その絵に自らの書を加えて包装しました。以後、たぬき煎餅のロゴは、この狸の絵になっています。

麻布十番にて店を再開した後、再開のお知らせをどのようにすればいいか考えて、字紋散らしで包装紙をつくることにしました。圓蔵には、天性の文化的な素質があり、非常に独特の味わい深い手書き文字で包装紙をつくったのです。結果として、多くのお客様にたぬき煎餅再会をお知らせすることができました。

現在では、栞をお読みになるお客様が少なくなったので、狸のマスコットをつくっています。おかげさまで、このマスコットは、好評を得ています。